世界文化遺産登録5周年シンポジウム

世界文化遺産の登録5周年を記念して開催されたシンポジウム。ざっと数えて、100人を超える人たちが集まっていました。何がすごいってその大半が識者や行政、外の人ではなく、﨑津・今富集落にくらす人たちであるということ。いつもながら、﨑津・今富集落の皆さんの地域愛を感じました。

冒頭、文化課の中山 圭さんは学芸員としての視点からこの5年の歩みを語り、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の12の構成資産のなかでも、﨑津は在り方が異なっているというニュアンスのことを話してくれました。中江ノ島、黒島、奈留島、久賀島の集落は思えばまだ足を運んでいなかったので、できれば今年から来年にかけてその価値にふれ、﨑津集落や天草のことをひるがえって眺めてみたいとも思います。中山さんが締めの言葉として贈ってくれた「近き者悦び、遠き者来る」という孔子の「論語」の一説は、﨑津集落だけでなく、天草や熊本やいろんな取り組みを考える上でも、心に刻んでおきたい指針のひとつになりそうです。

河浦中学校の観光ボランティアガイドの活動報告は、実際に活動をつづける生徒7名がステージに立ち、堂々と「自分の言葉で」発表する姿がまぶしくて、あふれる涙をおさえることすら忘れていました。少子高齢化と過疎化の進む地域において、彼らの華奢な方にのっかる重圧は計り知れないものかもしれなくて。それでも自らの成長機会ととらえ、チャレンジや考えることを続ける彼らの今が、きっとそれぞれの未来の種になることを信じて、羽ばたく姿を心から応援したいとも思い。さらに数年後、数十年後に自分の可能性をいかせる場所として帰ってきたいと思えたり、思い出すだけで力をくれるこころのふるさとみたいなものが、在れたらいいなとも思います。

東京大学名誉教授の篠原先生の基調講演では、日本の景観行政で風致地区と美観地区の浸透のしかたに違いがある理由、国立公園法も社会的背景とともに用途や捉え方が変化しながら今があること、暮らし方や過ごし方を想定したまちのデザインの大切さなどについて、法改正の歴史も交えて語られました。なかでも印象的だったのは、「華を意識することの大切さ」「まちづくりを考えるうえで、目的をひとつに絞らないことが有効である」「5つの溜まりを意識することの意味」などです。

東京農業大学名誉教授の簑茂先生による基調講演は、自らも東京とあさぎり町の2拠点居住者であるという前提から、たとえば「準市民」などというように、納税や行政サービスの活用も含め、多拠点居住者が名実ともに地域に根を張ることのできる新しい仕組みをつくってもいいのではないか?という提案がなされ、首がもげるほど頷きたい気持ちになりました(っていうか、天草市のふるさと住民制度ってそういう期待を持って登録したけど、違ってたんですよね)。また、「GOD MADE」「MAN MADE」「MAN DESGIN」という捉え方でみた、﨑津集落の価値。「画家の目と詩人の心、科学者の頭でを寄せ合って、全体を考えることの重要性」。さらに、地域愛を意味する「トポフィリア」という考えかたなどをご教示いただき、準市民でもない半分外みたいな立ち位置でも、天草諸島をこよなく愛する人たち、ゆかりある人たちとの共創・協業の可能性が広がる気がしました。

講演会の終盤は、熊本大学の田中 尚人准教授のファシリテーションのもと、星野先生、そして今年から天草市の景観学術委員を務めてくださるという奈良文化財研究所主任研究員の惠谷浩子さん、河浦中学の現役ボランティアガイドリーダー、馬場市長という4人のパネリストによるパネルディスカッションも。「ときには、したたかさを持って取り組むことがあってもいいのではないか」という星野先生の言葉や、「天草全体のみなと文化を俯瞰して、﨑津今富集落の魅力を深掘りしてみるのもいいのではないか」という惠谷さんからのご提案。リアルな河浦町の魅力と課題を見つめたうえで、未来志向で家業を捉えてみたいと語る中学生のまなざし。さまざまな意見を踏まえて語られた馬場昭治市長の思いなど、とにかくたくさんの熱意が会場をあたためてくれた気がします。

世代も立場も違うから、あの場に居合わせた人たちが持ち帰ったものはそれぞれ違うかもしれないけれど。次の5年、10年、20年を見据えた何かがはじまりそうな予感もします。10周年はこの地で事業を営む立場の人の本音も聞けたらいいな。いずれにしても、貴重な機会にご一緒させていただき、本当にありがとうございました。

※中学生ガイドも務める河浦中学生たちのステージ上の勇姿も載せたいところですが、いち保護者の視点からプライバシーに配慮し、スクリーン画面と遠めの写真のみとさせていただきました。中学生ガイドの活動詳細をご覧になりたい方は、天草市のサイトに公開されているこちらの動画(9分9秒くらいから)をご覧ください。

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