ここ数年、注目が集まる「歩く旅」。お遍路さんをはじめとする巡
礼旅のほか、オルレやロングトレイル、歴史・観光スポットをめぐる
ガイドツアーや、自然歩道など、歩き方も多彩です。なかでも注目し
たいのが、各地の風土や農山漁村の日常を垣間見る「フットパス」
という歩き方です。そもそもフットパスとは、イギリスで発祥した
アクティビティー。湖畔や森林、田園地帯、古い町並みなど、各地
に広がるありのままの風景を楽しみながら歩くというものです。日
本国内のフットパス先進地として知られる熊本県下益城郡美里町で
はこれをアレンジし、四季折々の集落の日常を垣間見られる15のコ
ースが生まれています。
美里式フットパスとの出会い
私が初めて、美里町のフットパスに出会ったのは、2013年9月22日
のこと。当時あった10コースのうち、「小崎棚田コース」と名付け
られた道を歩かせていただいた日の感動は、5年経った今でもあざ
やかに覚えています。
棚田は黄金色に神々しく輝き、畦道を縁取るように咲く彼岸花は風
に揺れるたびに、「いらっしゃい。私たちが守り続けるこの里山へ」
と囁いているようにも見えました。道端にはまだ色づく前のカラス
ウリや紫色の葛の花、ムカゴや栗、柿と、秋の実りがいっぱい。
当時まだ小学生だった子どもたちと一緒に歩いたこともあり、草笛
を楽しんだり、草相撲に興じたり、バッタやカエル、沢ガニを追い
かけるのにも忙しく、なんとも楽しいひとときを満喫しました。
何より胸に残ったのは、小崎地区の人々のおだやかな営みとやさし
い笑顔です。収穫後の稲の掛け干しをしていたお母さんと交わした
何気ない挨拶や、棚田を満たす井川の冷たさ、清らかさ。道端の木
陰でいただいたお茶とお饅頭、梨のおいしさ。
さらに、公民館で集落のお母さん方が作ってくれていたごはんのぬ
くもりは、今も忘れることができません。掛け干し米はやや丸みを
帯びた塩むすびに。野菜のお煮染めや、シャキシャキとした芋がら
を炊いたもの、干し柿のサラダに摘果メロンのお漬物など、美里町
の初秋を味わうものばかり。
いきいきとした山里の風景と、お母さんたちの気取らない笑顔に、
自らのふるさとや両親、かわいがってくれた祖父母やご近所さんた
ちの姿を重ね合わせ、胸が熱くなったのでした。
訪れるひとも暮らすひとも笑顔に!
「歩く」の魔法
私は、この日の日記をこんな言葉で締めくくっていました。「やさ
しい日本に会いに行く。ゆたかな人に会いに行く。そんな気持ちで
もう一度、二度、三度、美里へ遊びにまいります」。ですが、気づ
いてみれば三度といわず、もう両手で数え切れないくらい、美里町
へ通っているのです。家族と、友人と、仕事仲間と。フットパスだ
けでなく、写真を撮りに出かけたり、田植えのワーホリやマーマレ
ードづくりを教わりに行くこともあれば、地震後のフットパスコー
スのチェックで歩いてみたり。ふと棚田の風景のなかでお弁当を食
べたくなって、ひとりで出かけたこともあります。ちょっと熱めの
温泉が好きになり。森のパン屋さんや、物産館のそば屋で味わう季
節そば、オシャレなカフェや、お茶屋さんのソフトクリーム、石橋
のアーチや、二宮金次郎像のある小学校跡の宿泊施設、どんぐりも
売ってある直売所などなど、お気に入りの場所が行く度にどんどん
増えていきます。そして気づけば、美里町はこの5年でさらなる輝き
や活気を増しているようにも感じます。そこにはもちろん、地域の
皆さんや行政の皆さんの継続的なお取り組みがあると思うのですが、
それに加えて「歩く人が訪れ続けている」ということも、大きな力
になっているように思えていました。
それを裏付けるのが、県内外各地へのフットパスの広がりです。熊
本県内でも山都町や五木村、西原村、芦北、菊池、山鹿、人吉、倉
岳、有明、牛深など、各地でフットパスの取り組みが盛んになりは
じめ、「ランブラー(=歩く人)」も増加している模様。私の知人
にも「週末毎に県内外のフットパスコースを歩きに出かける」とい
う方がいて、ほぼ毎週末、どこかのまちの風景がSNSで飛び込んで
きます。
そんなフットパスを天草西海岸でやってみたら、きっとおもしろい
ルートができるのじゃないかしら。天草の「歩く」「観光」のバリ
エーションとしてフットパスルートをつくってみたい!母や地域の
方々が楽しそうに歩いたり、訪れる人と笑いあう姿を見てみたい。
しかも、2019年度から県全体で「歩く人を歓迎する」まちづくり
活動として「WaWくまもと構想」がスタートするタイミング。そ
の機運に乗らない手はないんじゃないの!?などなど。いろんな
思いが交錯し、「フットパス研究所」代表の井澤るり子さんにお
越しいただき、特別講演とフットパス的歩き方の体験会を開催さ
せていただくことになったのでした。(つづく)