かたるびとvol.1 松本明生さん(序章)

「天草塩の会」の代表 松本明生(まつもとあきお)さんと初めてお目にかかったのは、2015年10月のことでした。

「まさか自分が塩屋になるとは思ってもみませんでしたが、個人でできる塩づくりという文化を残しておくべきだと思いました」。「大江はある種の秘境だと思います。いい塩ができるのは、ありのままの自然と美しい海があるからこそです」。

薪をくべながらぽつぽつと語ってくれたその言葉は、5年経った今も、胸に焼きついて離れません。私の知らない天草を、塩の道を、教えてくれた人のひとりです。

天草西海岸の片隅でおよそ30年にもわたり、「小さな海」の塩づくりを貫いた松本明生さん(享年70歳)。ウミガメをモチーフにした「小さな海」のラベルには、このような一文がしたためられています。

—塩と海と生命と—

地球に海ができ、初めて生命が生まれました。
その母なる海を私たちは、
自分自身の体の中に持っているのです。
それは胎児が浮かぶ羊水の成分や、
私たちの血液・体液の成分と
海の成分が似ていることからも言えます。
私たちの身体には、まさしく小さな海があるのです。
体内に海を持つ私たちは、
常に奪われる海を補わなければなりません
(「小さな海」商品ラベルより抜粋)

2020年6月10日に旅立つその直前まで、自らの思う「生」「命」をまっとうした松本さん。その姿勢は、私たちにたくさんの種をのこしてくれました。松本さんが塩づくりを通して追求し続けたものはなんなのか。あらためて、考えてみたいと思います。

(ライター&ソルトコーディネーター 木下真弓)