牛深のみなと文化と雑節(その3)

雑節の焙乾に広葉樹を用いることは、すこやかな水や土、空気を育み、里山里海の保全と地球環境の維持にもつながります。

50年以上も前からつづく、天草のSDGs

熊本県の調査によると、天草諸島の総面積87,839haのうち、森林面積は57,976ha。島の66%は森林で構成されており、その割合は県の平均を上回っています。さらに森林のなかでも、木材を生産する目的で人の手によって管理されている人工林は23,062ha、比率にすると40.6%(県の平均が60.8%)。つまり、天草の森林の6割近くが広葉樹を含む天然林であることがわかります。

日本国内では、戦後の高度経済成長期、里山里海に2つの大きな変化がありました。家庭用燃料として用いられていた薪や炭は、エネルギー革命によって、電気や石油・ガスに置き換わり、山と人々のくらしに距離が生まれていきます。さらに復興を支えるため、建材やパルプなどに用いる木材の需要が高まり、それに応えるために各地で人工造林がはじまりました。

育成の早い針葉樹を選んで植樹した人工林は、人が手をかけ続けなければその環境を維持できません。人手不足や高齢化で枝打ちや下草刈り、間伐・除伐といった管理が行き届かなくなると森林としての水土保全機能が著しく低下。表土の流出や洪水、土砂災害のリスクも高まります。

一方で、天草の天然林に多く含まれる広葉樹は、切り株から新たな芽を出し、森林へと成長する「天然更新」が特徴。伐採後に植樹の手間をかけることなく、再生することも可能です。

樹齢の若い木は、古い木に比べてより多くの二酸化炭素を吸収し、たくさんの酸素を排出する力があるため、広葉樹を適度に伐って使うことは、CO2削減にもつながります。(ちなみに、横に根をはる広葉樹と、縦に根をはる針葉樹をミックスした混交林で、かつ低木〜高い木が共に存在することで、土砂災害の抑止や生物多様性の維持につながるともいわれます)。

グリーンカーボンとブルーカーボン

広葉樹の多い森林には、たくさんのいのちが巡ります。

蝶や蛾の幼虫は葉っぱを食べて育ち、成虫になると鳥や動物のいのちを支えます。木の実は鳥や動物の食料となり、花の蜜を求めてやってくるハチは、花の受粉を助けます。スズメバチやカマキリなどは増えすぎた昆虫を食べてバランスを保つほか、新たな害虫が森林にやってくることを阻止する役割もあるそうです。

地面に積もった落ち葉は土壌生物によって分解されて腐葉土となり、その養分が雨とともに川をつたって海へ流れ込み、ゆたかな藻場を育てます。藻場はCO2を吸収して酸素を放出するだけでなく、有機物を分解し、栄養塩類を吸収するなど海水の浄化を促します。産卵や生育の場として魚介類を育み、海の生物多様性を支えます。

半世紀以上も前から脈々と受け継がれる、天草の里山里海の循環。
牛深の雑節は、さまざまなことを教えてくれます。

(その4につづく)

文責/木下真弓(だしソムリエ)

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