イ草のヨガマット開発中<1>

新幹線開業にあわせ、ならではの景観でもてなしを!と岡さんら有志が八代平野に植えた菜の花。刈り取った後はすき込んで緑肥として用いられるが、その景観はいつしか八代の春の風物詩となり、おいしい菜種油もつくられるようになった(写真は岡さんより借用)

江戸から昭和にかけて行われた干拓で生まれた広大な耕
地が広がる八代平野。これを潤すのが、球磨川です。中
世に築かれた遙拝堰(ようはいぜき)を取入口として用
水路をつたって運ばれ、八代平野の農業用水や工業用水
として用いられているのですが、意外と知られていない
のが、その水が上天草地域の水道水としても利用されて
いるという点。また、環不知火海という観点から見ても
八代平野の営みは、天草の私たちにとって、決して人ご
とではありません。

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ところで八代平野は、日本一のイグサ産地としても知ら
れます。国産畳表の約9割が今もこの地で生まれていま
すが、この地でイグサが栽培されはじめたのはなんと、
500年も前のこと。全盛期には「緑のダイヤ」と呼ばれ
るほど、価値ある産物として育まれてきました。

 

収穫されたイ草は束ねて自社工場へ。ここから畳表を織るまでが、イ草農家の仕事(写真は岡さんより借用)

 

苗床田に植えられたイ草の苗(写真は岡さんより借用)

米の裏作として栽培されるイグサの植え付けは、毎年12
月頃。畑で苗として育てられ、翌8月に苗床田と呼ばれ
る水田へ植え替えて、株を増やす期間に入ります。苗を
株分けし、本田へ植え付けるのは翌12月。春頃にはあた
り一面が緑のじゅうたんに染まり、夏にようやく収穫期
を迎えます。

分けつした苗を小分けにするのもすべて手作業(写真は岡さんより借用)

最初の植え付けから収穫までかかる期間は、なんと1年
半近く!!!その間、「細くて長い高品質なイグサ」を
栽培するためにさまざまな手を尽くし、収穫したイグサ
を畳表にするまでが農家さんの仕事です。なんと、手間
暇のかかる農作物なのでしょう。日本の畳って、本当に
贅沢なものだったのですね。

 

本田へ植え付けられたイ草(写真は岡さんより借用)
収穫間近なイ草畑の様子(写真は岡さんより借用)

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かつて、私たちの暮らしになくてはならない存在だった
イグサ。ですが今、イグサ農家は存続の危機に立たされ
ています。

日本の住環境が欧米化し、畳の間が減ってきたこと。中
国産の安価な畳表が輸入されはじめたこと。ビニール畳
なるものが登場してしまったこと。織り機や糸など、畳
表をつくるために必要な20を超える産業のひとつひとつ
もまた、窮地に陥っていること。など、要因はさまざま
ですが、最盛期には1万戸を超えたイグサ農家も近年は、
年に100軒単位で減っていて、すでに400軒台になってい
るといいます。

畳表の製造には20を超える業種が関わっており、どれひとつ欠けてもなり立たなくなるが、現状はかなり厳しい状況まできているそう

 

畳表の織機に設置された縦糸。真ん中の糸はつくられる県によって色の決まりがあり、「りんどう色」の糸は、熊本県産畳表であることを示す

親から子へ代替わりをするタイミングで、米の裏作をイ
グサから野菜へ切り替えた農家さんなどがあったりもす
るようで、このままだとこの傾向はこれからも加速して
いきそうです。

収穫したイ草のなかから畳表の幅に合うものだけを選りすぐり、一本一本織り込んで畳表がつくられる
イ草や米をつくる傍ら、イ草農家や日本の農業の未来にも警鐘を鳴らす岡初義さん

そんな状況に危機感を覚え、内外の人たちと手を取り合
っていろいろな試みや発信をつづけているのが、環境配
慮型の農業をつづけるイグサ農家の岡初義さんです。お
会いして、話を伺う度に、イ草農家や日本の未来につい
て考える機会が増えていきました。さらに、岡さんの手
がけるイグサや畳表の価値に魅了され、いつの頃からか
私たちの暮らしに近いものとしてお届けできないかと考
えるようになっていました。

土作りからはじまる岡さんの米&イ草づくり。自家製堆肥には、自家栽培の米のぬかなどもたっぷりと
岡さんのイ草は米の裏作として作られる。表作となる米には害虫の防除として、自家製の黒砂糖発酵液や自家製黒酢にがりなどからつくった溶液を散布。こ農薬の使用をできるだけ少なくし、自然の浄化還元作用を高めることで、残留農薬をゼロにする工夫も

ところで、一般的な畳表は乾燥による変色を防止するた
めに、イグサを天然染土100%の泥水に浸ける「泥染め」
という作業を行います。一方、岡さんの畳表はイグサの
泥染めをせず、織り上げたもの。

かつての日本で当たり前だった「畳の間」。泥染めしないイ草は、特有の手触りや香りも特徴。森林セラピーの現場でも注目されるフィトンチッドと呼ばれる香りの成分も含まれるといい、癒やしの作用にも着目

イグサ本来の色や艶、香りを楽しむ「すっぴんい草」と
名付けられ、全国各地の畳屋さんで「無染土すっぴん畳」
として、アレルギーやシックハウスなどのお悩みを持つ方
や、“空気の質”を大切に考えるご家庭などに取り入れられ
ています。

 

半畳サイズの畳は無地のほか、発がん性物質を含まない染料で染められたカラータイプなども
発がん性物質を含まない染料で染め上げられた、カラーイ草

畳をもっと身近な存在に!とつくられた半畳サイズの畳
は、フローリングの間に置きやすく持ち運びもしやすい
ため、赤ちゃんのいるご家庭やオフィスの休憩室などに
も重宝されているそうです。

岡さん(写真左)と、ヨガインストラクターで、Yin Yoga in Asia TTC日本人一期生でもある門永友香さん(写真右)

そうした特性を生かした、私たちが欲しい商品ってなん
だろうと考え、今回はヨギーニが考えるヨギーニのため
のヨガマットを製作いただくことにしました。ヨガにも
いろいろなスタイルがありますが、今回は岡さんの「す
っぴんい草」の価値を伝えるための商品として、「呼吸」
を大切にするヨガインストラクターの門永友香さんに監
修をいただくことにしました。

最初の課題を克服した試作第2弾。使い心地を確かめながら、さらに改良点を探る

先日、試作第2弾が上がってきたのですが、想像以上の仕上
がりに感動。岡さんをはじめ、関わってくださるつくりて
さんのご尽力に感謝でいっぱいです。サイズやデザインなど、
ヨガをする人の日常に取り入れていただきやすいものになる
よう、少しだけブラッシュアップをお願いしたところではあ
りますが、早ければこの秋のうちにもリリースできそうです。

ご興味のある方、お取り扱いをいただけるバイヤーさん
などいらっしゃいましたら、ご連絡お待ちしております。

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