昨日は、熊本県流通アグリビジネス課が主催する「くまもと地産地消・KUMARICH研修会」の日帰りバスツアーのアテンドデー。今回、ディープな天草の里山里海案内は、所要時間の関係で断念したものの、熊本市近郊に店を構える皆さんからのリクエストだった「湯島大根」をメインに、天草にふれる企画に仕立てました。
熊本市の崇城大学市民ホール前からバスに乗り合わせたシェフ一行。大矢野島の西側にある鳩の釜漁港から「菊盛丸」をチャーターし、湯島へ向かいます。他のお客様に気兼ねなく、30分の船旅を満喫できるのもチャーター船のいいところ。乗り込んですぐに、備え付けの将棋に興じる方々もいらっしゃいました。
今回、参加者の半分以上が湯島初!港にひしめき合う民家と、集まる猫たちを前に初上陸の感動を噛み締めます。
湯島港では「元気もりもり農園」のお父さん、森教孝さんが出迎えてくれ、ご挨拶。湯島大根が育つのは海抜100メートル前後の頂上付近の台地のみということで、いくつかのアクセスルートのうち、慣れていなくても比較的のぼりやすい西側ルートから山頂へ向かいました。
海沿いから登る手前のところには人懐っこい白×茶色の猫が待ち構え、一行の先頭へ駆け寄ったかと思えば、のぼりがきつくなるあたりになるとまるで励ますように最後尾につき、結局、海辺から山頂の畑まで〜山頂の畑から港付近まで、ずっとニャテンドしてくれました。ところどころ心臓が飛び出しそうになる急な坂道もありますが、思いがけない名ニャテンドのおかげで皆さん、息切れしながらも笑顔で港まで戻ってくださったことが、ありがたくもありました。
この日は大寒のまっただなか。それでも沿道に咲く梅の花は早くもほころびはじめ、大地が春支度を始めようとしていることを感じます。山頂付近には湯島大根やカスミソウなどが栽培され、ハウスのひとつでは、湯島大根の割り干し&切り干しもつくられていました。
山頂の展望所の先にある森さんの畑で、湯島大根の由来や火山由来の堆積土をはじめとするおいしさのヒミツ、育み・届けるうえでのリアルな所感をお聞かせいただき、お待ちかねの収穫体験。参加者の多くが普段から地域の産物に目を向けて、畑などにも出かける方々ではあるものの、やはり湯島大根の大きさ・重さに驚いておられたご様子です。
一本3キロオーバーの湯島大根を両手に抱え、どろんこで嬉々として写真を撮る方もいらして、森さんともどもうれしい気持ちでいっぱいでした。掘りたての湯島大根をカットするたび、しゅぱっとほとばしる水滴が、湯島大根のみずみずしさを物語ります。畑でひとくちほおばってはその味わいを噛み締め、もう一口とおかわり試食をなさる方々も。「まるで梨のよう‼︎」「これはもはや大根じゃない」「スイーツにもできそう」と、さまざまな感想が聞こえるたびに、誇らしげな森さんの顔が印象的でした。
なによりありがたかったのが、お持ち帰り用にと洗って切り揃えた大根の、捨てようとされていた葉っぱを見て、誰からともなく「これももらっていいですか?」と持ち帰られたこと。結局、帰り道にはほぼ全員が袋いっぱいの大根葉を携えていて、あふれんばかりの愛に思わず、うるっとしました。
ところで、弓形をしていることから、弓島が転じて現在の名になったとも言われる湯島。島の周囲は4キロほどですが、北風が強いため、港や家々は南側に集中しています。往路で歩いた海沿いの車道は昭和の後半、東京で大根人気に火がついたため、その出荷を後押しするために拓かれた道でもあるそうです。頂上から南側の生活圏の中へ張り巡らされた幾筋もの路地が、昔ながらの島民たちの生活路。昨日はつかの間ではあるものの、島の暮らしに想いを馳せていただければと、往路と復路で車道と路地の両方を歩きました(筋肉痛になっていたら、申し訳ありません)。
「島原・天草一揆」の際に、天草諸島と島原半島の領民たちがひそかに集い、話し合いの末に天草四郎をリーダーに据えたいわれのある「峯公園」に立ったときには、モヤの中から島原がひょっこり顔を出し。中腹の「諏訪神社」では、一揆で用いられた鍛治水盤を横目に、ひとりひとりが手を合わせ、島の神様へご挨拶。拝殿の前に座ったきじ猫が、手を合わせるみなさんの顔をまじまじと見上げているのが微笑ましくもありました。2時間足らずの島滞在でしたが、港へ着けば、港界隈をなわばりにする猫たちが集まってくれるなど、終始なごやかな時間となりました。
ブーム火付け役の女将のもとで、湯島大根を食べ尽くす
午後には、湯島大根の第二次ブームの火付け役ともなった女将に会うため、「はしのそば天慎」へ。この時季しか食べられない「湯島大根のステーキ」と、酢で締めたコハダとかつらむきした湯島大根でつくる「コハダのバッテラ」、ゆず香る湯島大根の浅漬け、そして特製だご汁などをいただきながら、湯島大根への思いを聞きました。
「大根を主役にしたい」という女将の恵美子さんの思いを昇華させたのが、亡き夫でもある先代。出汁を含ませて炊いた湯島大根に、衣付けして表面をカリッと焼き上げ、甘辛い特製ダレをじゅわっとかけて熱々をいただく「湯島大根のステーキ」は、山頂付近の畑で育つ、糖度の高い湯島芋を使った「池の露 湯島」とも好相性です。バスでご来島のシェフには酒肴も合わせ、天草の風土を存分にご堪能いただきました。
春を告げる南国サーモンと、天草の海里の産物も
お忙しいシェフたちが貴重な1日を割いて天草までお運びいただくのなら、せめてつかの間の旅気分を。そんな思いもあり、食後は弓ヶ浜の滞在型ホテルリゾラザバードのワーケーションスペースをお借りして、コーヒー&紅茶を片手に食材提案のひとときを。
南国サーモンやシマアジ、ブリにマダイなど、さまざまな魚を育み、天然魚も取り扱う「浜田鮮魚」の社長 浜田さんにお運びいただき、天草に春の訪れを告げる「南国サーモン」をはじめ、海面養殖で育まれる魚介についてお話しいただきました。信州から稚魚を運び、馴致の過程を経て海面養殖を行う南国サーモン。導入して間もない頃にお話を伺ったとき、「天然魚と養殖魚の差をいう人もいるけれど、養殖は、餌や海水温、海流など、研究に研究を重ね、最高の食味になるよう大切に育んでいる。いきのいいサーモンを、九州・天草で刺身で提供できるようになったら最高でしょう?」と情熱的に語られた言葉が忘れられません。そのストイックさが今は人間の身体づくりにも及んでいるようで、近々、三角駅界隈に理想の筋肉を鍛えるトレーニングジム「ナルシストジム(仮)」をオープンする予定もあるそうです。南国サーモンあらため、ナルシストサーモンあるいはマッスルサーモンと呼ばれる日も来るかもしれません(冗談です、ごめんなさい)。
そして、湯島大根をはじめ、上天草エリアの農水産物をあまねく取り扱う「道の駅さんぱーる」の部長 林田さんには、天草大王や車海老、黄金のハモ、果樹や野菜など、四季折々の産物の情報をご提供いただきました。清らかな水を誇る姫戸の白嶽のふもとで、天草の海産物なども食べて育つ、天草大王のお話にはじまり、さまざまな品種の柑橘類が栽培されていること。お野菜のこと、具体的な配送の相談まで、天草の流通を担う直売所としてのご提案も。私も今さらですが、日本で車海老養殖発祥の地をかかげる地域のひとつ、維和島の車海老が、天草の海で育った稚エビを入れて蓄養する天草の海の完全体であることを、実は初めて知りました。黄金のハモは、細かく骨ぎりしたものを、冷蔵・冷凍どちらの加工も手がけているので、夏だけでなく、お鍋のおいしいいまの時期でも仕入れることができるそうです。こんな冷え込む夜に、ハモ鍋とか、アツアツの鱧天ぷらとか、天草大王の水炊きとか食べたい。。。
海のおやさい「海藻」は自然と人の営みの象徴だった
最後に、大矢野島の真ん中あたりに位置する海産物のお店「林商店」で、海のお野菜をたくさん見ていただきました。天草で採れたワカメやヒジキ、アオサをはじめ、フノリやその他、各地の海藻や乾物を取り扱う同社。敷地の一角では、テングサが天日干しされている風景を見ることもできました。
やや緑がかったテングサを前に、「ここ最近は、日照時間が少なくてまだ色が抜けきっていないんですよ」とは社長の林さん。そういえば、海でシュノーケリングなどをしているときに見かけるテングサは赤褐色だけど、大潮で浜に打ち上げられて、しばらく経ったものは緑がかっていたり白っぽかったりするのです。
こうして店頭に並ぶテングサは、真水で洗って紫外線にさらすことで、次第に赤みが抜け、そしてみんながよく知るトコロテンの、あの生成りっぽい色味に変わるんですね。あたりまえのように台所にストックしていた海藻も、自然と人の営みでつくられているのだということを、あらためて感じます。
天草のインスピレーションをくれるリゾラザバード
ちなみに会場をお借りしたリソラザバードでは、合間で、有明海と島原を一望する専用テラス付きの宿泊棟なども見学させていただきました。宿泊棟とワークエリア、オーシャンビューテラス、食材持ち込みで楽しめるバーベキューゾーン、焚き火エリアにパターゴルフスペースなど、天草で暮らすように旅をしたい人々にも人気のスポット。
プライベートな寛ぎに満ちた海辺のリゾート空間が、今後の天草の旅のタネや食のインスピレーションの素になっていたらいいなとも思います。まずはその土地を好きになっていただくことがはじまりですものね。いつか、天草の産地を巡って出会った食材をもちこみ、スペシャルな料理を味わう旅の企画もできたらいいなとも思います。
ご参加いただいた飲食店の皆様、ご協力いただいた皆様、
コーディネートの機会をくださった関係者の皆様。本当にありがとうございました。
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