この季節、天草のあちこちの海辺に緑のじゅうたんを敷きつめたよう
な風景が広がります。アオサ(ヒトエグサ)と呼ばれる海藻です。幼
い頃、磯遊びに出かけては岩場についたアオサを手摘みし、流れ着い
た牛乳パックなどに入れて持ち帰ったものですが、近年はアオサ養殖
も盛んになり、不知火海や有明海に面した波おだやかな沿岸部では、
アオサの養殖網を見かけることが増えてきました。
養殖アオサは、岩場についた天然アオサと比べて砂利などの不純物が
つきにくく、さっと洗って使いやすいのが魅力です。これを乾燥や冷
凍し、日持ちのいい状態にして販売されるものは、一年を通じてわが
家の常備食材のひとつです。“海の野菜”と呼ばれるほど栄養豊富な海
藻類は、葉野菜の代用としても便利です。吸いものに加えたり、キュ
ウリやショウガとともに酢のものにしたり。ワカメと違って刻む手間
もいらず、仕上げに加えてサッとひと煮立ちするだけで、磯の風味豊
かなお味噌汁ができるので、時間のない朝などにも重宝します。
2〜5月はアオサの摘み取り時季でもあり、店頭に「新アオサ」と書か
れた生のアオサが並ぶこともしばしばです。乾燥ものや冷凍ものより
もさらにフレッシュな磯の香りが楽しめる生のアオサは、この時季な
らではの逸品。軽く洗って水気を切った生アオサを、甘さ際立つ旬の
新タマネギとともに天ぷら衣に混ぜたかき揚げは、天草の方に教えて
いただいて以来、わが家の春のレギュラーメニューになりました。
もうひとつ、この時季だけの旬の献立として、家族が楽しみにしてい
るのがアオサとアサリのパスタです。フライパンにオリーブオイルを
しき、ニンニクと唐辛子で香りづけしたところに、同じく旬を迎えた
有明海のアサリを投入。パカッとアサリの口が開いたところで生アオ
サを加え、茹でたパスタとともに炒めれば出来上がり。アサリとパス
タの茹で汁で十分な塩味とうま味があるので、特別な味付けなしでも
おいしく味わえます。
あと一ヶ月もすれば天草は新ジャガの季節。米粉をつけてカラッと揚
げた新ジャガに、出汁でサッと煮たアオサをあんかけ状にしてまわし
かければできあがり。仕上げに乾煎りしたチリメンジャコと、刻んだ
落花生をトッピングすれば、彩りも食感も楽しい春の一皿の完成です。
お店でも自宅でも、手軽に味わえる旬の味 新アオサ。
天草は、おいしい春が満開です!