ときを旅する。天草東海岸クルーズ検証

再開発計画が進む本渡港周辺を起点とし、天草諸島の魅力を再発見する試みとして行われている天草東海岸クルーズの検討ツアーに参加しました。この試みの中核を担うのは、「ノサリバ」や「下浦土玩具」「天草ヒノキプロジェクト」をはじめ、さまざまな企画を牽引し、天草の未来創造性を内外から引き出す若杉浩一さん(武蔵野美術大学教授)のプロジェクトチーム。第2回目となるこの日の旅先案内人は、海上タクシー「大鵬丸」「たいほうⅡ」の船長 山下幹生さんです。

御所浦町生まれ御所浦町育ちの山下さんは、海上タクシーや島のガソリンスタンドを経営する傍ら、島の未来を考える若手有志らと「せんばいなか」という団体を立ち上げた情熱家。そんな山下さんがこの日最初に誘ってくれるのは、御所浦島です。

本渡港の浮桟橋を出発し一路、御所浦島へ。本渡瀬戸を東へ進むルートには、開通を待つ「第二天草瀬戸大橋(仮称)」、ループ橋として親しまれる「天草瀬戸大橋」、そして可動式の昇降橋として知られる「本渡瀬戸歩道橋」(現在、メンテナンス中)があります。いつもなら車や徒歩で渡ってばかりの橋を、下から見上げる優越。旅モードはすでに全開!です。

天草上島と天草下島をつなぐ「本渡瀬戸」は、有明海と不知火海の間を結ぶおよそ5kmの海峡。古くから長崎や八代、鹿児島をつなぐ最短の海上ハイウェイとして、重要な役割を担ってきました。

その北側に広がる有明海は、1日最大7mもの干満差があり、たくさんの生態系を育む干潟が存在する海としても知られます。本渡瀬戸も例外ではなく、かつては干潮時に浅瀬を歩いて渡った時代もあるそうです。船の航路としての便を向上させるため、昭和29年から55年にかけて拡幅・増深工事が行われました。跳ね上げ式の可動橋から、ループ橋と歩行者専用の可動式昇降橋へと橋の形状が変わったのもこの頃です。

ちなみに、北前船のルートに沿って日本各地へと伝播したハイヤ 節のルーツ「牛深ハイヤ」の一節には、徒歩で渡れた頃の本渡瀬戸の風景が歌われています。

  ♪えーさ 牛深三度行きゃ 三度裸
   鍋釜売っても 酒盛りゃしてこい
   戻りゃ本渡ん瀬戸 徒歩渡り(かちわたり)♪


新日本風土記アーカイブス「牛深ハイヤ 節」では、動画の2’00″頃から牛深市民舞踊保存会(当時)の歌をご覧いただけます。上述の節は、2’40″あたりで登場します。

先人たちが徒歩渡りしたという瀬戸を、グングン南下していく海上タクシー。両岸に見える風景が、住宅街のなかの「海路」から「海」に変わった瞬間の開放感ったらありません。

いざ上陸!「恐竜の島」へ

今回の目的地「天草市御所浦町」は、熊本県で唯一、離島だけで形成されたまち。御所浦島、横浦島、牧島といった人の暮らす島と無人島を合わせると、大小18の島々から構成されています。四方を海に囲まれたこの島々では、ちりめん漁や定置網漁など漁業で生計を立てる人も多く、不知火海の豊かな恵みを味わう海鮮料理や海産物のおいしさでも知られます。この島々に戦前から伝わる伝統漁法の「とんとこ漁」は、網へ魚を追い込む際に船のヘリをたたき、「トントコトントコ」と音をたてていたことが名前の由来だといわれています。

天草下島(本渡港)や天草上島(棚底港)とをつなぐ定期船が着岸する御所浦島。島の西側にある御所浦港に降り立つと、ド迫力のモニュメントが出迎えてくれました。「雲仙天草国立公園」の一部でもある御所浦島は、白亜紀後期の地層からなる島で、島のあちらこちらでアンモナイトの化石や恐竜の化石などが出土し、いつしか「恐竜の島」と呼ばれるようになりました。

白亜紀後期の恐竜の化石や、ゴショライアと呼ばれる二枚貝、新生代古第三紀のほ乳類の化石などを見ることのできる博物館は現在、建替工事の真っ最中ですが(2024年3月リニューアルオープン予定)。その分、「海にうかぶ博物館あまくさ」や、島の案内人たちを通じて魅力に触れることができます。

この日、御所浦物産館「しおさい館」の駐車場には、恐竜が描かれたレンタカーが待っていました。お子さんや恐竜好きにはたまらないジュラシックツアーのはじまりです。クネクネ道を上りきり、たどり着いた「烏峠(からすとうげ)」は御所浦の最高峰で、標高442mの頂きまでの道のりは「烏峠トレッキングルート」として整備され、アンモナイトロードなども存在しています(2022年6月9日~10月末の期間は安全管理のため、閉鎖中)。

頂上に設えられた展望所は、天草諸島や雲仙普賢岳、水俣、八代平野、鹿児島などを見渡す360度の大パノラマが自慢のビュースポット。その見事な眺望に、暑さや時間も忘れて見惚れてしまいました。

1億年の時間を語る「白亜紀の壁」

一行は港へ戻り、再び海上タクシーに乗船。ここからはスペシャルガイドとして、「海にうかぶ博物館あまくさ」や、「御所浦恐竜の島博物館」の建設準備にも携わる学芸員の鵜飼宏明さんも同乗してくれました。

御所浦島の南東に位置する「白亜紀の壁」は、港や海岸の埋め立てに使われる石の採掘作業によってあらわになった巨大な断崖で、200m以上の高さがあるポイントも。現在も採掘作業が続いているため、クルーズでのみ見ることのできる特別な景観のひとつです。

日本最大級の肉食恐竜の歯や、草食恐竜のすねの骨をはじめ、御所浦で最も多くの恐竜化石が出土している「白亜紀の壁」。緑灰色や赤、白など、色の異なる地層からは、河川の氾濫や干潟の生態系といった1億年の地球の歴史を学ぶことができます。
熊本地震でも記憶にあたらしい「正断層」や「逆断層」といった地殻変動のリアルを感じる場所もあるなど、地質学のみならず防災学的にも“生きた学びの場”としても興味深いエリアです。
熊本の災害特性政府地震調査推進本部断層と湾曲

(↑写真は2021年10月、くまもとDMCの水俣・御所浦モニターツアーに乗船したときのもの)

スペシャルガイドの鵜飼さんに導かれ、御所浦の化石採集クルーズのみで上陸できる、採石場跡地へ上陸しました(上陸には「海に浮かぶ博物館あまくさ」への許可申請もしくは、化石最終クルーズの利用が必要です)。

「ちょっとここ、見てください」という声に誘われ、岩場へ足を進めると、そこにはなんと巨大なアンモナイト化石が!

化石採集体験ツアーが行われるスポットのひとつでもあるこちらのエリア。足元に目を凝らすと、こんな化石に出会うこともできました。

化石とおぼしき石の破片を手にしては、鵜飼さんのもとへ駆け寄る私たち。子どもならずとも夢中にしてしまう化石採集の魅力をあらためて感じます。そして見るものすべてに、地球の営みの偉大さを感じるひとときとなりました。

2022.8/1〜9/25 海上タクシー貸切!恐竜の島 化石採集クルージング

泊まれる無人島「黒島」

鵜飼さんと山下さんがエピローグ的に寄り道してくれたのは、無人島「黒島」。サンゴの破片でできた真っ白い砂浜は海水浴場として親しまれ、島の逆サイドにはキャンプ場が設置されています。遊べる&泊まれる無人島です。

海水浴場には昔ながらの井戸が今も現役で存在しています。断層も見られる海上クルーズとセットにすれば、防災キャンプなどにもうってつけの場所になりそう。また、天使が羽をひろげたようなユニークな形状の「アマクサシダ」といった希少な植生に加え、近年の噴火で流れ着いたものでしょうか、海水浴場の際には大きな軽石などもありました。

気づけば、思い思いに「石投げ」を楽しむ一幕も。「子どもの頃、よくやりましたよね」「あー!おしい!」「いった!3段!!」などと、みんなすっかり童心にかえっていました。島旅の魅力って、こういうところにもあるのかもしれませんね。

やや名残惜しそうに船に乗り込み、帰路につく一行。ふと目を向けた先には、不思議な存在感を放つ孤島がありました。ゴツゴツとした岩の頂上にあるのは、二股にわかれた樹木。その姿はまるで、シシ神さまのようです。

「自然万物に神は宿る」
そんな言葉が浮かんできた1シーンでした。


本渡瀬戸を再び戻り、4つの橋をくぐって本渡港へ。

ほんの4時間ほどのクルーズでしたが、悠久の時を旅した気分です。

天草諸島をめぐる船旅は、いつもとは違う島の風景を見せてくれました。まだ数日しか経っていないのに、次はどんなところへ出かけようかと思いをめぐらす私がいます。

船長山下さんとスペシャルガイドの鵜飼さん、
ご一緒させていただいた皆様に。
そして、雲仙天草国立公園の自然と人の営みに。

心からの「ありがとう」を贈ります。