天草のパノラマすぎる霊山「倉岳」

天草上島と御所浦島を結ぶフェリー乗り場のある倉岳町棚底地区。倉岳と矢筈岳(やはずだけ)が肩を並べてそそり立つ様子は、まるで兄弟が背比べしているようにも見えます。

天草諸島最高峰の倉岳(標高682m)。地元で“霊山”と仰がれる

標高682m。天草諸島最高峰の倉岳へ

標高682m。天草諸島最高峰の倉岳は、古代から天草の人々が霊山として仰ぐ山です。1972(昭和47)年に起こった天草大水害の影響で、ずいぶん長い間、登山道が廃道になっていたそうですが、「倉岳トレイルクラブ」のメンバーや天草のパラグライダー愛好家らがともに山へ入り、草や倒木の処理を行うなどして2012年7月、「延命登山道」を開通。

トレイルクラブのメンバーらが最初につくった「倉岳延命登山道」

 

その後、相次いで登山道を開き、倉岳と近隣の6つの山頂を結ぶ「倉岳六峰アルペンルート」を開通させました。遮るもののない山頂は、360度のパノラマビューを楽しめるポイントでもあり、多くの登山家たちが訪れます。山頂までつづく車道もありますが、細道を自らの足で歩いてたどりつくこの風景はまた、格別。毎年7月には、山頂からパラグライダーが舞う「天草Xアスロン」なども開催されます。

山頂より、東側をのぞむ。御所浦島をはじめとする天草諸島の島々。その向こうには、八代の工場群の煙突や八代港、水俣・芦北の街並みも見える
西側には上島や松島、大矢野島、宇土半島はもちろん、天草五橋の風景が。有明海の向こう横たわるのは島原半島。画面中央あたりにうっすらときりたつ山は、雲仙普賢岳(天気が良ければ、もっとクリアな視界が広がります)

山頂に霊水。それは、“やがて海になる水”

山頂で“霊水”とあがめられる水場を見つけました。昭和30年12月、御所浦出身の僧が平和祈念の宝塔建立で倉岳町を訪れた折、倉岳神社に水がないと聞いて山頂へ向かって祈祷。そこで霊感を得て登山をし、この場所を掘ったところ、岩間から水がしみ出たという逸話がのこされています。

山頂に湧く霊水

「天草=海を思い浮かべる人も多かでしょうけど、山を守らにゃ、きれいな海や漁場も保てんでしょう。だからこそ、まず倉岳の山の魅力を知ってほしい」。ずっと前に取材でこの地を訪れたときに「倉岳トレイルクラブ」の代表 稲田哲さんが教えてくれた言葉を、ふと思い出しました。山頂や、あちこちの山肌から湧き出す水は、“やがて海になる水”。山人だけでなく、里人、海の人、みんなで守り育みたいものだと感じます。

海の守り神「倉岳神社」。お供えはサザエ!?

山頂には、漁民と航海の安全を祈願する「倉岳神社」が祀られています。海や島を見下ろす神社は、思わず息をのむ神々しさです。地元の子どもたちの遊び場や、山の幸、そして霊水とも呼ばれる湧水など、貴重な恵みをもたらす倉岳は、島の守り神のような存在といえるでしょう。

天草諸島と海を見守る神社
倉岳神社の鳥居

2016年4月14日と16日。熊本は、最大震度7の地震に見舞われました。天草諸島はかたい岩盤の地が多いため、あまり揺れがなかったイメージでしたが、実はこのとき倉岳町も最大震度5の揺れに見舞われていたそう。鳥居は無事でしたが、ご神体が傾くなどの被害が出たといいます。これに心を痛めた地域の皆さんの手によって、ご神体の置かれる台座などの補修工事が行われました。

立派に補修がなされた倉岳神社
倉岳神社の鳥居の向こうに祀られた神様。心なしか笑みを浮かべているよう
海の神様だけあって、石舟の上にはたくさんのミナ(巻き貝の一種)が備えられていました
倉岳神社たくさんの神様が祀られています
こちらの神様の表情もとても穏やか
お供え物はなんと、サザエ!?信仰心の厚さを感じます

ところで。訪れたこの日はちょうど台風接近間近の日。低い土地はやや穏やかだったので登ってみたのですが、360度遮るもののない頂に立つ神社は、立って参拝するのがドキドキするほどの風でした。

このサイズのしめ縄がこれだけなびく風の強さ。伝わるでしょうか!?

それでも。というかだからこそなおさらに、
自然への脅威と感謝を覚えた次第です。
先日、最大震度7の揺れを記録した北海道を含め、
日本中の、世界中の島々に、平穏が訪れますように。

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