鍵井靖章さんが見た、天草

世界的に活躍する水中写真家 鍵井靖章さん。8月18日から10日間にわたる天草滞在で、撮りためられた写真のいくつかを見せていただけるということで、シェア会にお邪魔しました。
鍵井靖章さんウェブサイト→https://kagii.jp/

朝から、鍵井さんとともに2本のダイブをともにしたという大学生の皆さんも、撮りたての妙見浦の写真が映し出された瞬間、画面に釘付けに。「同じ場所に潜っていたはずなのに、鍵井さんにはこんな風に見えているんですね」と驚きの言葉が漏れ聞こえました。今日のカットだけでなく、天草滞在中に他の場所で撮影されたカットもいくつか見せていただけたのですが。

なかでも印象的だったのは
「静と動」の見つめかた、とらえかた。

例えば、まるでテキスタイルのような光の文様だったり。妙見洞窟の壁面と光をとらえた3色のコントラストが際立つカットだったり。真新しい断面をあらわにした落石が、水中で存在感を放つ1枚だったり。ところどころで頬を伝う涙を感じたのは「天草の海」を超え、胸に迫るなにかがあったから。

静けさ、脈動
海、川、森
地球、宇宙
命の輝きと儚さ
自然、不自然 etc…

ときに、何かを語りかけてくるようだったり、
逆に、無音よりもずっと深い音を感じたり。

とにかく「水の中の写真」というだけでは語れない世界がいっぱい。なにを書いたところで、私の拙い言葉で伝えきれるわけもなく、もどかしくなるばかりです(苦笑)。

「自分が見つけた風景が、誰かの力になっている。自分の写真や発信した言葉が、誰かの日常になる。 誰かの癒しになる。写真家っていい仕事でしょう?」

「水中写真を撮りはじめて30年、カメラマンとして活動をはじめて22年。常に新しい視点を求め、心に触れたものを撮ることを続けてきた」と語る鍵井さん。今日エントリーした妙見浦で「今日の視点」として撮影された写真には、「光」と「影」と「闇」がありました。

「影があるから、光が生きてくる」

学生たちに写真のコツを伝えた一言はまるで、ゲーテの言葉のよう。

拝見したなかには、アオリイカの子どもたちの写真も。「(アオリイカの子どもたちは)気を許してはくれないけど、息を止めて、なにかしら撮影させてくれる距離に行けたらいいなと思って撮った」と話す鍵井さん。そうして撮られた最初の写真は、海をたゆたうアオリイカたちの素顔がのぞくもの。そこから少し接近して撮影したという写真は、さきほどとは一変し、体を黒く染めたアオリイカの緊張感が伝わるものでした。普段から、ノートリミングで被写体とのありのままの距離感を映し出すことを信念にしているそうで、そうしたエピソードの端々に、鍵井さんのありようが滲んでいるようでした。

「世界が抱えている問題も、水中から発信できる人間として撮らなければならないという思いがある。カメラで絵を描いてやろうという気持ちとともに、今知るべきもの、伝えるべきものがあればそれを撮影しようと思っています」

鍵井さんが今回の天草ツアーで映し出した写真のなかには常に、陰陽のイメージがありました。海に漂うプラスチックゴミは、キラキラとした世界のなかにあり。サンゴやイソギンチャクの白化現象は、まるで絵画のようでもありました。一見すると美しい一枚の写真。そこにあるキーワードをどう捉えるかは、見つめる人の心の瞳次第なのかもしれません。でも少なくとも海は、自然は、いつも語りかけています。

ところで。今回のシェア会に誘ってくださったのは、天草町下田に拠点をおく「天草うみの学校」の森俊徳さん。2016年の熊本地震のボランティアをきっかけに鍵井さんとの縁が生まれたといい、地震の翌年に開催した復興記念のダイビングツアーや昨年、そして今回の天草ツアーもフルアテンドしたそうです。

天草の海に20年以上潜り続けている猛者でもある森さんですが、
「こんな世界が妙見にあるなんて!と驚きました。見どころがなんなのか、自分の中でピンときてないものもありましたが、(鍵井さんの視点で描かれた写真を見て)ここって自慢していいんだと今回、あらためて思いました」と、今日の感想を聞かせてくれました。

今後の森さんのツアーも、愉しみがより広がっていきそうな予感がします。

天草うみの学校 → https://amakusa.org/

今回、鍵井靖章さんが見た「天草の海」

◉ダイナミックな地形ポイントが、ビーチ(エントリーできる位置に)あるんだという印象
◉高浜の沈船は、宇宙空間みたいなものを撮りたくなった
◉「牛深海中公園」で漁師が捨てたロープだと思たら海藻。面白い
◉「妙見洞窟」のトンネルは色であふれ、ひとつの舞台として使える
◉妙見浦のビーチのアーチ部分は落石注意になるかもしれない
◉大ヶ瀬のイソギンチャクはこの1週間で真っ白になっていた
◉沖縄や伊豆などにはない、海の中の「緑」が印象的だった
◉海底にある負の遺産も、見つめる角度や魚の存在で伝えやすくもなる

海の中はもちろん、森でも里でも。島という場所から、天草や日本や地球の陰陽を深く意識し、変わりゆく今を味わい、慈しんでいきたいなと思えた午後です。鍵井さん、森さん、学生さんたち、本当にありがとうございました。

今回の天草ツアーの写真ではありませんが、天草諸島の海も登場しています
        ↓

Scroll Up