笑っちゃうほど、こっぱもち。

スライスしてトースターで炙った「宝島本舗」のこっぱ餅。器は「十朗窯」(天草)の橘釉薬の小皿と「丸直製陶所」(岐阜)の湯呑み


天草では「こっぱもち」、長崎では「かんころもち」。
どちらも保存の知恵に満ちたおやつ

天草にゆかりある人なら一度は食べたことがあるであろう「こっぱもち」。カライモ(サツマイモ)をスライスして真ん中に穴をあけ、藁で吊るして大鍋で茹で、寒風にさらして天日干しした保存食「こっぱ」を用いた、昔ながらのおやつのこと。天草では「こっぱもち」と呼ばれますが、長崎や五島列島では「かんころもち」と呼ばれ、ともに愛されています。

<こっぱもちのつくりかた>
1. もち米を洗って一晩、水につけておく
2. こっぱを洗って水を切り、半日ほど置いておく
3. 蒸し器を2つ用意し、①と②をそれぞれに蒸してつぶしておく
4. ③とお砂糖を臼に入れ、つきながらよく混ぜる
5. ④を4−5センチの厚さに伸ばしてある程度固まったら、適度な大きさに切り分ける(もしくはあたたかいうちに、丸餅サイズに丸める)

伝統的な「こっぱ」づくりの風景

寒風の吹く頃になると、家々の縁側や軒先に、藁で吊るした「こっぱ」が暖簾のようにずらりと並んだものですが、最近ではこの光景もめっきり減りました。一方で、風通しと衛生管理を考えてのことでしょうか、スライスしたこっぱを平たく並べ、上下をネットで挟んで干してある家を見かけることが増えました。

年末になると、お正月用の餅と合わせてこっぱ餅をつくる家も多く、年の瀬には台所があちこちからいただくこっぱ餅だらけになっていたものですが。近年は、お正月用の餅を餅屋さんにお願いするケースも増え、自家製こっぱ餅をやりとりする機会が減りました。かくいう我が家も最近はもっぱら、お餅屋さんやお菓子屋さんのつくる商品にお世話になってばかりです。

日持ちのする形で販売されている「宝餅本舗」のこっぱもち

つくる場所や形状は変われども、原料はサツマイモともち米と砂糖だけというのは変わりません。添加物を一切用いない素朴なおやつ「こっぱもち」は、明治・大正・昭和生まれはもちろん、平成生まれの子どもたちにも変わらず好評。お土産や季節の便りにお渡しすると、喜ばれることうけあいです。

ところで、表題の件。「こっぱもち」で「笑っちゃう」とは何事だ!と気分を害された方がいらしたら、すみません。でも今日、一番伝えたいことは本当に「笑っちゃうほど、こっぱもち」なんです。

というところで、これ、なーんだ?

エリックカールの「パパ、お月さまとって!」のビジュアルにそっくりですが、お月さまじゃありません。

横から見たら、こんな感じ。

う、うすっ!!!

実はこれ、こっぱもちをパリッと焼き上げたおせんべいなんです。その名もずばり「こっぱ餅せん」!!

2年ほど前でしょうか。牛深の道の駅「海彩館」で見つけた時は、半信半疑で買ってみたんですが、食べてみて笑った。驚いた。パリッとした食感に焼き上げてはあるものの、口に入れた瞬間、広がる風味がまさに「こっぱもち」なんです。いやはや、お見事。軽い食感だしおいしいし、なつかしいしで、つい食べすぎてしまいますが、腹持ちもしっかりめなのでご用心(笑)

製造元の「宝餅本舗」さんを訪ねました。

ーあのおせんべい、大好きなんですけど、どうして作ろうと思ったんですか?

社長 「うちは長年、こっぱもちを作り続けているんですけどね。最近は、こっぱ餅を切るのが億劫っていう人が増えているみたいで。だったら切る必要もなく、もっと手軽に食べられる形にできないかと考えて、お煎餅にしてみたんですよ」。


なんて消費者思い。。。とちょっと感動したところで、早速、商品として取り扱わせてください!というお願いと、在庫ってありますか?とお尋ねをしたところ、驚きの答えがかえってきました。


社長 「この煎餅は注文を受けてからつくるから、2日ほど時間をもらっていいですかね。こっぱもちをつくるところから始めなきゃいけないから」


(え?こっぱ餅をつくるところからはじめる???)


ーすでにこっぱもちになってあるものをスライスして焼くだけじゃないのですか!?


社長 「いやいや。こっぱもちの商品をつくるのと同じ工程で、煎餅のためにゼロからこっぱもちをつくって、それを切って焼くんですよ」


煎餅のためだけにつくったこっぱ餅!?
なんと贅沢な。。。


最初の質問で、(余剰のこっぱ餅を有効利用しようと思ったのがはじまり)という答えを予測していた自分が、とても恥ずかしくなりました。


こっぱ餅をつくるだけでも結構な手間なんですが、そこにさらにひと手間ふた手間加えた、おやつです。「こっぱ餅せん」。出会った時は是非、手に取って見てくださいね。


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