信者の手で蘇った大江教会/前編


しずかな緑の丘に佇む白亜の聖堂。1933(昭和8)年に築かれた「大江教会」は天草を代表する風景のひとつです。キリスト教の禁教がとけたあとの天草に赴任し、住民たちと苦楽を共にしながらキリスト教伝道に生涯を捧げたガルニエ神父が、私財を投じて建てたロマネスク様式の教会は、完成から90年近くの歳月を重ねた今も変わらず、多くの信者たちが集う祈りの場。この教会とこの地に息づく祈りの文化を次代へ継承するため、大がかりな改修工事が行われたのは、令和になってまもなくのことでした。


数ヶ月にわたる工事を終え、引き渡し式と記念のミサが行われたのは、令和元年の11月9 日。青空にまばゆく輝く聖堂を見上げる信者たちの表情は、いつにも増して晴れやかです。この日に合わせて信者たちが用意したのは、数百個もの紅白餅。実は、86年前の建立当時、村人を招いて行われた落成式も餅投げで賑わったそうです。この日、渡辺隆義司祭やシスター、信者代表らによって行われたお祝いの餅投げは、信者たちの喜びと感謝の気持ちとともに、建立当時の風景を彷彿とさせるものでもありました。




80余年の時を超え、つながれたバトン。


とりどりの色ガラスを配した窓や絨毯、軒や白壁など、創建された当時の雰囲気を大切に行われた今回の改修。その工事を請け負ったのは、長崎で数々の教会改修を手がける「川康建設」です。実は、工事のすべてを采配した代表の川口康さんは大江出身で、幼い頃から家族で教会に通っていた信者のひとり。それだけに、今回の改修は川口さんにとっても、特別なものだったといいます。



「86年ぶりに、私の隣人たちの希望の詰まった祈りの家を改修させていただきました。私はここの出身の人間ですので特に、感慨深いものがあります。“教会”は祈る人がいなければただの“建物”にすぎません。ですが、いつの時代も信者さんたちの祈りにあふれているこの場所は、まぎれもなく“教会”です」。引き渡し式で感謝状を手渡された川口さんは、思いを噛みしめるように言いました。「この立派な教会を、信者の方々とともに次の世代へ伝えていきたいと思います」とは、渡辺隆義主任司祭の言葉です。(後編へつづく)

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